2012年11月15日木曜日

中国の習近平指導部が発足、軍トップの座も掌握:メデイアの論調

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●中国の習近平指導部



ロイター 2012年 11月 15日 15:28 JST
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE8AE03120121115?sp=true

中国共産党の新指導部が発足:識者はこうみる
中国の習近平指導部が発足、軍トップの座も掌握

[北京 15日 ロイター] 中国共産党は15日、習近平国家副主席を新たな総書記に選出した。
 習近平氏は、これまでの9人から7人に減らされた中国共産党最高指導部、政治局常務委員のトップとなる。
 習近平氏はまた、党中央軍事委員会主席にも選出された。識者のコメントは以下の通り。

政策は今後5年を重視
<シティ(香港)の中国担当エコノミスト、MINGGAO SHEN氏>

 習近平氏と李克強氏以外の常務委員は2017年に引退する。
 このことは、今後5年間の政策により重点が置かれることを示唆している。
 この5年間は、中国が成長を維持し、景気見通しへの信頼を取り戻すための足元を固めるのにきわめて重要な期間だ。

大胆な経済改革あると確信
<中国欧盟商会(北京)のダビデ・クチーノ氏>

 権力の移行は、停滞していた改革を早急に実行するという歴史的な機会を新指導部に与えている。
 改革により、中国経済は持続可能な成長という新たなステージに移り、より広く所得が向上する社会に向かうことができる。
 これは容易な仕事ではないだろうが、新指導部は大胆な行動に出るとわれわれは確信している。
 なぜなら、求められている改革は必要不可欠なだけでなく、急を要するからだ。
 そうしない場合、ビジネス環境で危険な結果を招くリスクが生じるだろう。

急進的変化はないと予想
<マンダリン・キャピタル・パートナーズ(上海)のマネジングパートナー、ALBERTO FORCHIELLI氏>

 新指導部は発言は改革志向でも、経済・金融改革についての行動には極めて慎重を期すだろう。
 強い抵抗と強い拒否反応により、変化のスピードは鈍くなるだろう。
 改革への真の圧力は知識人の中だけに存在し、一般国民は経済において何を行うべきかを認識していない。
 そういう意味で中国は、国民が実際の選挙権をまだ持っていないものの、投票基盤だけは大きい国々にますます似通ってきている。

 中国共産党は積極型というより適応型であり、実際の変革は危機によって促される可能性がある。
 銀行危機や地方政府の財政難、国内総生産(GDP)伸び率の大幅鈍化といった、あまり劇的でないショックが引き金となるかもしれない。

 変化はほとんどないと予想している。
 急進的ではないだろう。
 危機が生じない限り、誰も前例と違うことはしないだろう。
 第18回中国共産党大会は政治的には、既に表明されている通り、表現は強いが実行が困難な政策の継続を意味する。
 ただ党大会終了後、マンダリン・キャピタルは福祉、保健、環境、革新的石油・天然ガス産業、消費者製品などのセクターへの投資を加速する。
 将来の指導者が、さほど抵抗なくこうした産業を引き続き重視していくとみているからだ。

前進も波乱もない
<香港バプティスト大学のジャン・ピエール・セバスチャン教授(政治学)>

 最高指導部は分裂している。
 彼らが何かをしようとしないとは言わない。
 新たな成長モデルへと転換することは容易で、それについて合意していると思われ、そんなに難しい課題ではない。
 ただ、政治システムの変革という点では政治的マヒが多くみられる
 前進はないだろう。

 王岐山氏が(党中央規律検査委員会書記に)就くことは、彼を二次的な立場に置くことになる。
 彼が唯一、改革派寄りといえる。
 習近平氏がリーダーシップとカリスマ性を発揮して、残りの指導部に自身の見解を押し付けない限り、波乱が起こるとは思えない。

*内容を追加して再送します。




ウオールストリートジャーナル 2012年 11月 15日  16:15 JST
http://jp.wsj.com/World/China/node_548653?mod=WSJWhatsNews

中国の新リーダーに習氏が正式決定-政治改革派2人は外れる

習近平副主席が15日、中国共産党の新たなリーダーに選ばれた。

 驚きの中、胡錦濤主席が留任するとの見方が強かった軍のトップである党中央軍事委員会主席にも習氏の就任が決まった。
 流血や追放、政治的混乱なしに、すべての権限を一気に委譲する中国のリーダーは胡主席が初めてとなる。

 習氏は同日朝、人民大会堂で開催された中央委員会第1回全体会議(1中全会)に、テレビの生放送の画面に、常務委員を率い笑顔で手を振りながら登場した。
 常務委員は現行の9人から7人に減員された。

 習氏のすぐ後ろに、李克強副首相が続いた。
 新指導部は来年3月に就任する。

 常務委員の減員は広く予想されていた。
 意思決定を容易にする措置として党内外で前向きに評価されている。
 同国の広大な国内の治安維持を統括するポストも減らされた。

 しかし、常務委員の席をめぐる激しい競争では、胡主席や温首相に連なる改革派が外され、江沢民前主席に近い人物が選ばれた。
 前主席は2002年に退任したが、その後も政治力を維持している。

 政治改革に最も力を入れてきたと言われる李源潮党中央組織部長と汪洋広東省党委書記は選出されなかった。

 江前主席に近い常務委員には、王岐山副首相も含まれる。
 同氏は財政を担当し、米国との交渉の窓口となってきた。
 同氏は党の汚職対策機関を率いるとみられる。

 中国では、新たな指導部は、選挙や政策論争によってではなく退陣する指導部や党の長老などによって密室で選ばれる。
 こうした透明性の欠如によって抑圧的な政治システムと政権への要求を高めているインターネットを使える国民との間に溝を作っている。

 今年は、一連のスキャンダルによって同国の指導者の権威が打ち砕かれ、共産党の根幹が揺さぶられた。
 最大のスキャンダルは重慶の薄熙来 前重慶市党委書記の失脚だ。
 同氏は常務委員候補だったが、妻が英国人事業家を殺害の罪で8月に有罪になった。

 常務委員は、さっそく山積する課題に取り組まなければならない。
 最大の問題は失速する経済だ。
 政権内部からも、官僚の利権の根源となっている国営企業の実質的な独占状態をこじ開ける新たな改革の波を求める声が高まっている。
 だがソビエト連邦はこうした改革によって崩壊したとみられている。

 官僚の腐敗は深刻で、胡主席さえも先週の第18回共産党大会の開会挨拶で、このままでは共産党の、ひいては国家の崩壊につながると警告した。
 とはいえ、新たな指導部も政策によってではなく党内の派閥によって選ばれた。
 特に86歳の江前主席の色が反映されていると政治アナリストは言う。
 江前主席は昨年、重病説が流れたが、奇跡的に回復した模様で、新たな指導部を選ぶ上で胡主席をしのぐ影響力を発揮し、自らに近い人々を常務委員にすることに成功した。

 米シンクタンクのジェームズタウン基金のアナリスト、ウィリー・ラム氏は、
 「この常務委員会はバランスが悪い」
とし、胡主席が江前主席に裏をかかれたとの見方を示した。
 ただ胡主席は江 前主席に近い委員が党の規約によって退任しなければならない2017年に常務委員になれる可能性のある地位に子飼いを送り込んだという見方もある。

 向こう5年間は、胡主席に近い常務委員は少数派になるだろうとみられている。
 トップになるのが確実なのは、李克強 副首相ただ一人だ。常務委員に留任したのは習氏と李氏だけだ。




ウオールストリートジャーナル 2012年 11月 10日  18:15 JST
http://jp.wsj.com/World/China/node_545761?mod=bullet_WSJWhatsNews

中国の新リーダー、習近平氏 改革の手腕はいかに?

 中国の新指導者は誰に助言を求めるのだろう。
 15日に中国最高指導者となる習近平氏は、資本主義の道は決して選ばないと誓った毛沢東に助言は求めないほうがいいことは重々承知している。 
 過去30年間の市場改革のおかげで貧困から抜け出した国民にもそう伝えてほしい。

 習氏が頼るとすれば、孟子の厳しい教えかもしれない。
 儒学者の孟子は正義のない君主は倒されるという「天命」説を説いた。
 孟子はその最も有名な著作の中で、君主に対して「なぜ利益について話すのだ?」とたずねた。
 君主が思いやりや義務より利益を追求すれば、配下の人間や庶民も同じことをするだろう、と孟子は言った。
 「そうなれば、誰もが利益を求めて奔走し、国は危機に瀕する」

 習氏と新たに選出される中国の指導部にとって、それが実に難しいところだ。
 中国は全体としては、国民の多くが「利益を求めて奔走」したことで莫大な利益を手に入れた。
 しかし、上層部の人間も自分を抑えきれず、真の市場とは決して言えない中国のシステムの中で自らの特権的地位を利用した。

 現在59歳の習氏が最高指導者の座に就く今年、中国では共産党内部の腐敗と権力の乱用がこれまでにないほどの規模で表面化した。
 最高指導部入りがうわさされた薄熙来前共産党委書記の妻が英国の諜報機関M16の情報提供者でビジネスマンの英国人男性を昨年11月に殺害した事件は記憶に新しい。

 2002年に就任した胡錦濤国家主席(党総書記)でさえ、共産党第18回党大会開幕初日の今月8日の演説で、腐敗の問題が広がっていることを認めた。
 党大会には3000人近い党の代表が出席し、次期指導部を選出する。胡氏は党総書記としての最後の演説で
 「この問題にうまく対処できなければ、党にとって致命傷となり、党が滅び、国が滅ぶだろう」
と述べた。

 レーニン主義の政治制度を21世紀の経済問題やソーシャルメディア時代の政治力学に合わせる方法を見出す仕事は今や、「革命第5世代」のリーダー、習氏の肩にかかっている。
 現在、国家副主席を務める習氏は明らかにいくつかの点で胡主席よりも有利な立場に立っている。
 胡氏が率いる指導部は比較的弱く、2002年以来、経済や政治の改革が不十分だとして党内から批判の声が上がっていた。

 習氏の父親は毛沢東とともに戦った革命の英雄だった。
 1960年代に失脚したが、1980年代には党の高官に復帰し、初期の市場改革の立役者となった。
 このおかげで、息子の習近平氏は「太子党」と呼ばれる党幹部の子弟とネットワークを築いた。
 このような太子党のメンバーが現在、政府や軍で高官を務めている。
 一方、胡氏の父親は茶の販売店を経営していた。

 胡氏は私企業や外資がほとんど入ってなかった内陸部の省でキャリアを積んだが、習氏は過去30年のほとんどを中国の経済成長の原動力となった東部の省で過ごし、問題解決や企業の支援を行った。
 習氏は胡氏よりも西側、特に米国に親近感を抱いている。
 習氏は1985年に初めて米国を訪れた際に、アイオワ州マスカティン市でホームステイを経験した。
 習氏の娘は現在、ハーバード大学に在学中だ。

 問題は習氏が革命の遺産やエリートたちとのつながり、自らのカリスマ性、幅広い行政経験を生かして、党内で既得権益を握る人たちと戦い、中国を新しい発展の道へと導けるかどうか、である。

 中国内外のエコノミストは、中国が成長を続けるためには、私企業と個人消費にさらに頼ることが必要だと警告している。
 それは、国営企業の力を縮小し、腐敗した地方官僚による土地の強奪を阻止し、出稼ぎ労働者の家族への福祉を充実させて都市部に数千万人もの新しい消費者を呼び込むことにほかならない。

 それでも、新指導部は一夜にして大変革を断行しようとはしないだろう。
 元米政府高官によると、中国人民銀行(中央銀行)の周小川総裁は最近、この元高官に対して、少なくとも来年の10月までは改革に向けた大きな動きは期待しないように忠告した。
 習氏は集団の意思決定プロセスによる妨害を受けることも予想される。
 この集団による意思決定プロセスでは、断固たる行動よりも妥協が尊ばれ、新しい指導者は主要な政策変更について引退した指導者の助言を求めなければならない。

 習氏と家族ぐるみの付き合いのある友人らによると、習氏は自らの父親を参考にする可能性が高いという。
 習氏の父親は経済改革論者で、政治的には比較的リベラルだった。
 党内部の関係者によると、習氏の父親は1987年には、失脚した改革派指導者の胡耀邦氏を擁護する発言をしたり、1989年の天安門事件を非難したりした。
 習近平氏は公の場で父親について発言したことは一度もないが、友人らによると、習氏は家族の伝統を誇りに思うと同時に、他の党指導者の支持を得ずに性急に事を運ぶリスクを警戒しているという。

 習氏は2007年に中国の最高決定機関である党中央政治局の常務委員に昇格して以降、公私を問わず発言にさらに慎重になった。
 習氏と会ったことのある複数の元米政府高官によると、習氏は質問への反応が早いように見えるかもしれないが、詳しく分析すると、習氏の回答はあいまいなことが多いという。

 今年1月、国家副主席として初めて米国を訪問した習氏は招待者を魅了することに成功した。
 その点は外遊時に硬い印象を与える胡国家主席とは大きく異なる。

 習氏は訪米中、1985年に滞在したアイオワ州マスカティン市のホームステイ先を訪れたり、中国のリーダーとして初めて、大リーグの試合を観戦したほか、デイビッド・ベッカムやマジック・ジョンソンなどのスポーツ界のスターとも会った。

 習氏はワシントンでの夕食会で、父親が米国を訪問した際に撮影された写真のアルバムを贈呈された。
 そこには、ハワイでレイを首に下げたり、ディズニーランドでミッキーマウスの隣に立つ父親の姿があった。
 習氏はアルバムを開き、満面の笑みを浮かべて、ページをめくりながら父親に随行していた党幹部一人ひとりの名前を挙げた。
 この贈り物の贈呈に予定されていた時間は2分だったが、習氏は10分間、費やした。

 このアルバムを贈呈した米中関係委員会の委員長、スティーブ・オーリンズ氏は
 「とても快活で、明るい、思いやりのある反応だった」
と振り返った。
 「彼の父はカリスマ性が強い人物で、米国で過ごした時間に大きな影響を受けた。
 習氏もそうであってほしいと願っている」
と続けた。

記者: Jeremy Page、Bob Davis、Tom Orlik




CNNニュース  2012.11.15 Thu posted at 19:18 JST
http://www.cnn.co.jp/world/35024506.html

中国の新指導者、汚職対策など懸案列挙 軍事委主席にも昇格

北京(CNN) 中国共産党の第18期中央委員会第1回全体会議(1中全会)が15日、北京で開かれ、胡錦濤(フーチンタオ)氏の後任となる党総書記に習近平(シーチンピン、59)・国家副主席が就任した。国営新華社通信などが報じた。
習氏はまた、重要な安全保障政策や国防問題を仕切る党中央軍事委員会主席の地位も得た。新任の党総書記による軍事委員会主席への同時昇格は近年の権力交代劇を見た場合、異例となっている。直近の2度の指導部交代では、党総書記の経験者が退任後もこの地位を数年間保持し、国政への影響力をふるう権力ポストとなっていた。
習氏は記者団が詰め掛けた会場に現れて演説。到着が遅れたことをわびながらも、新体制が直面する多数の重大な内政課題に即座に話題を切り替え、汚職や政府と一般国民との乖離(かいり)、過度の形式主義、官僚制の弊害などに言及。腐敗体質は一部の党員らにも浸透しているとし、是正のため早急な対策を打ち出す必要性を強調した。
演説では共産党が建国の過程でこれまで果たしてきた功績を前面に出しながらも、国民は力の源泉であると説明。歴史は真の英雄である国民によってつづられるとし、今後の国政運営で国民と歩調を合わせることが肝要との考えを示した。

中国では近年、顕著な経済成長の背後で貧富の差拡大、土地の強引な収容への住民の抗議、官僚の汚職などのひずみの露出が増大しており、習氏の発言は国民の間に鬱積(うっせき)し続ける不満を踏まえたものとみられる。
新総書記はまた、国民が求める教育や雇用の確保、満足すべき収入、社会治安の確保、医療サービスの確立などあらゆる生活局面での改善はまさしく指導者の願いでもあると強調。共産党は心底から国民に奉仕する党であるとも訴えた。
対外政策にも触れ、「中国は世界のことをもっと知る必要がある。世界はまた、中国についての理解をより深める必要がある」と説いた。
1中全会では、最高指導機関である党政治局常務委員の7人の人選も明らかにされた。習氏の他、李克強(リーコーチアン)、張徳江、兪正声、劉雲山、王岐山(ワンチーシャン)、張高麗の6氏が選ばれた。李克強氏は来年、温家宝(ウェンチアパオ)首相の後任となる見通し。
常務委員7人は北京の人民大会堂に勢揃いして記者団らに紹介された。国民約13億人を率いる習氏の新体制は今後10年続くことになる。
1中全会に先立つ第18回党大会は今月8日に開幕し、党中央委員200人余を選出するなどして14日に閉幕していた。党中央委は政治局員や政治局常務委員を選んでいた。




(2012年11月8日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36522

習近平はどんな国家主席になるのか?
中国を改革するためには敵を作らねばならない

北京で誰もがお気に入りのパーティーゲームは、習近平氏がどんな国家主席になるかを言い当てることだ。就任からほぼ10年間経った今でも、胡錦濤氏がどんな国家主席だったのか正確に言うのは難しいだけに、このゲームは口で言うほど簡単ではない。

 毛沢東から、まさに適任の胡錦濤氏が占める「個性不在地帯」に至るまでの道程は、共産党が次々と指導者からカリスマ性を奪う道程だった。

個性不在地帯で頂点に立つ指導者

 常軌を逸した政策からまた別の常軌を逸した政策へと中国を振り回すことができた毛沢東のような人物に代わって、中国には今、エンジニアとテノクラートから成る9人の委員会がある。毛沢東は土地を集産化した。その後継者たちは、土地の代わりに意思決定を集産化した。

 中国の指導者たちは、ある外交官が「サメのプールの中のサメのプール」と表現するものの中で競争している。


習近平氏はどんな国家主席になるのか〔AFPBB News〕

 最後まで生き延び、血まみれの海の上に浮上する指導者たちはタフだ。何よりも彼らは、人の心証を害さない方法を知っている。習氏は、余計なことをしないことで、8300万人の党員から成る共産党の頂点に登りつめた。

 だが、これほど頂上に近づいた今、習氏が実際にどれくらいの権力を持つのかは、はっきりしない。

 習氏は11月15日頃に、共産党総書記として人民大会堂の舞台に向かってゆっくりと歩いているだろう。国家主席就任は来年3月まで待たなければならず、中央軍事委員会の主席として胡氏の後継者になるまでには、もしかしたらさらに1年以上待たなければならないかもしれない。

 前任者が思い知らされたように、時期をずらした権力移行の後でさえ、様々な制約があるだろう。

改革を阻む既得権者

 胡氏はいくつかの物事を成し遂げることができた。台湾との関係を修復した。首相の温家宝氏とともに、初歩的な社会保障制度の基礎を築き、中国農村部に発展をもたらした。だが、大きな後退もあった。所得格差は拡大し、社会的な不満は膨らんだ。

 一部の分野では、胡氏はほとんど無力だった。国内消費の方向に経済をリバランスするという目的は、国営企業の力を制限することを意味する。だが、国有企業は勢力を拡大し、2008年の危機後の景気刺激策で莫大な利益を得た。中国経済は、胡氏が国家主席になった時よりも、消費主導ではなくなり、より投資主導になっている。

 中国の既得権者が変革の障害になっている。指導者が労働者の権利を向上させようとした時、輸出業者は大声で悲鳴を上げた。権力とカネがあまりに絡み合っているため、変革に抵抗する既得権者と変革を促すはずの党が全く同一のものになっている。

 要するに、集産主義的な指導部は、習氏が持っているかもしれない毛沢東的な傾向を抑制する一方、既得権者は、習氏の内面にいる鄧小平を押しつぶそうとするということだ。もちろんこれは、習氏が変革の推進を望んでいるということが前提になっている。

習近平氏は隠れた進歩主義者?

 では、習氏とはどんな人物なのだろうか? そして、同氏が進歩主義的な意図を持っていると考えるのは理にかなっているのだろうか? ここでパーティーゲームが始まる。

 大方の人は、習氏の方が胡氏より個性を持っていることに同意する。これは高いハードルではない。外交官たちは習氏のことを、問題をよく掌握し、用意されたメモなしで対処できる自信を持った魅力のある人物だと言う。

 多くの人は、政治的に穏健派だった習氏の父親、習仲勲氏に目を向ける。習仲勲氏は1930年代に、毛沢東が「長征」を終えた場所でゲリラ基地を築くのを助けた。半世紀近く後に、習仲勲氏は広東省に経済特区を設立した。香港に逃げ出す人たちを射殺するのではなく、経済開放により人々がとどまるのを促したのだ。

 これらの物語から、一部の向きは、習近平氏は政治改革と経済改革の両面で隠れた進歩主義者である可能性があると考えている。もっともらしい説だが、その可能性は高くない。「人々は胡氏に大きな期待をかけていたが、過去10年間は失われた機会だった」と、ある学者はくぎを刺す。

 胡氏と温氏は漂流したが、より大胆な政策のための土台は築かれたのかもしれない。習氏と首相に就任する予定の李克強氏は、世界銀行が国務院発展研究センターと共同で作成した報告書「2030年の中国」に暗に賛同している。この報告書は、民間部門の自由の拡大、法の支配の強化、平等の拡大、環境保護の強化を提言している。

 中国が「中所得国の罠」を避けるためには、こうした変革が不可欠だ。だが、このような課題は、敗者を生み出すことなしには実行できない。変革を実現するつもりなら、習氏はこれまで極めて慎重に避けてきたことを行わなければならない。すなわち、敵を作り始めることだ。

By David Pilling
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【中国共産党第18回全国代表大会】


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