
●【9月30日 AFP】中国の温家宝(Wen Jiabao)首相は29日、建国63周年の国慶節を2日後に控えた祝賀会で演説し、国民に「一致団結して共産党を支えよう」と呼び掛けた。
『
JB Press 2012.11.02(金)宮家 邦彦
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36457
底知れぬ中国共産党権力の腐敗構造
温首相、あなたもか!~中国株式会社の研究(187)
9月25日付ニューヨーク・タイムズ(NYT)の中国関係記事は久しぶりに読みごたえがあった。
「中国指導者家族に数十億ドルの隠し資産(Billions in Hidden Riches for Family of Chinese Leader)」
と題するこの記事、恐らく中国で読むことはもはやできないだろう。
中国当局は直ちにNYT紙サイトへのアクセスを遮断した。
経験則上、中国が国内で報道を認めない内容は真実の可能性が高い。
だが、なぜか日本での関連報道は少ない。
そこで今回はNYT報道内容を勝手に検証し、その真偽につき筆者の独断と偏見を述べたい。(文中敬称略)
■日本マスコミは後追い報道
週末だったためか、日本での報道は比較的低調だった。
しかも、悲しいかな、大部分はNYT記事のいわゆる「後追い」報道。
日本マスコミ独自の本格記事はあまりない。
優秀な特派員が大勢いるのに。
まさか、党大会直前ということで、中国側に配慮したわけでもあるまい。
英語に investigative journalism という言葉がある。
事実関係を積み上げた地道な調査結果に基づく報道という意味だ。
「欧米のジャーナリストが最も憧れ、かつ誇りに思うのは、こうした調査報道なんだよ」。
昔NYTの記者がこう言っていたのを改めて思い出した。
NYTの今回の調査は合法的だ。
改革開放後、中国は外国投資奨励のため企業関係情報の公開を進めた。
その結果、弁護士・コンサルタントならSAIC(国家商工行政管理総局)から企業関連情報を1社当たり100~200ドル程度の費用で入手できるようになったという。
これに目をつけたNYTは、1年ほど前から北京、上海、天津など主要都市のSAIC地方支局に狙いを定めた。
温家宝首相の親族が管理すると思われる企業ネットワークを丹念に調べ上げ、合計数千ページもの関連企業文書を入手することに成功したのだそうだ。
とても片手間でできる仕事ではない。
恐らくは、大規模な専従班を作り、膨大な公開資料を徹底的に調べ直したのだろう。
当然、温家宝批判勢力からの情報リークもあったはずだ。
コスト的にも、時間的にも、かなりの難作業、これこそ investigative journalism の真髄である。
果たして、結果は実に刺激的だ。
やはり、NYTは中国最高指導者にすら喧嘩を売る勇気と矜持を持つ一流紙なのか。
それとも、中国政府が主張するように、
「中国を貶める、何らかの隠された意図のある」
世紀の大誤報だったのか。
■驚くべき蓄財システム
今回の記事内容を要約すれば、
「今回(NYTが)調査した企業関係文書・公式文書は、国務院総理の親族が、少なくとも27億ドルに相当する資産をコントロールしてきたことを示している(A review of corporate and regulatory records indicates that the prime minister’s relatives …have controlled assets worth at least $2.7 billion.)」
ということに尽きる。
NYTによれば、これらの隠し資産は、最大で五重ものダミー会社、仲介人などを使って真の所有者を隠し、銀行、宝石、観光リゾート、通信会社、インフラ工事プロジェクト、さらには、オフショア金融機関を活用して蓄財した結果だという。
中国要人「錬金術」の一端を知るうえで今回のNYT記事は精読に値するが、ここではすべてをご紹介するスペースがない。
原文をお読みになるなら、こちらを、「英語はちょっと苦手」という方には、同記事を簡単に要約した「宮崎正弘氏のコラム」を、それぞれご参照願いたい。
さらに、今回NYTはご丁寧にも国務院総理とその妻、母親、息子、弟、さらには彼らに連なる中国・香港の大富豪などの相関図まで掲載している。
報道内容によほど自信があるのだろう。
それにしても、実に中国らしい人脈図ではないか。
中国共産党高官とその直近家族(妻と子)には財産公表義務がある。
だが、高官の父母、兄弟・姉妹、義理の兄弟・姉妹、その配偶者などにはそうした義務がない。
今回報じられた27億ドル資産の8割は公表義務のない直近家族以外の親族の管理下にあるという。
■反論になっていない反論
当然温家宝首相一族は直ちに反撃した。
報道2日後の10月28日には、一族側の「大御所」弁護士2人が香港日刊紙にNYT記事に対する反論声明を送りつけている。
この種の外国新聞報道に対し、中国要人側が弁護士を通じ文書で反論するのは極めて異例なことだ。
同声明の要点は次のとおり。
●.NYTが報じた温家宝首相の親族のいわゆる「隠し資産」なるものは存在しない
●.温首相の母親には、規則に基づいた給与と年金以外に、収入も不動産もなかった
●.同首相の親族の一部はビジネス活動を行っていない
●.ビジネス活動を行っている親族に違法行為はない
●.温家宝首相が親族のビジネス利益について介入したことはない
●.今後もNYTの誤報に関する調査を継続し、NYTの法的責任を問う権利を留保する
反論声明とはいうが、よく読んでみると全く反論になっていない。
温家宝首相の母親は今年90歳。彼女は誰かの代わりに名前と身分証明書を不正使用されたに過ぎない。
問題は母親の収入・不動産の有無などではなく、資産の真の所有者が誰かであるはずだ。
また、温家宝首相が「介入」していないとの部分は、NYT側もほぼ認めており、反論にすらなっていない。
意地悪く言えば、この反論声明は、温家宝首相親族の一部がビジネス活動を行い、合法的に、巨万の富を蓄財した可能性を否定していないようにすら読めるのだ。
NYT記事には疑問もある。
例えば、今回記事の中で具体的に報じられている親族の資産額の数値を総計しても、とても27億ドルにはならない。
こうした数値が関連ファンドの持分だけなのか、現金資産を含むのかも不明だ。
声明はどうしてこの点を反論・追及しないのか。
この反論を書いた2人は中国と香港の有力弁護士だそうだが、内容は実にお粗末。
これでは中国国内の法廷ですら訴訟維持は困難だろう。
もちろん、本気でNYTを告訴する気などない。
やればオウンゴールになるだけだ。どうやらこの勝負、NYTに分があるように思う。
■温首相、あなたもか!
「中国の汚職は確かにひどいです。
でも、本当に腐敗しているのは地方政府であって、党中央にはクリーンな人々が選ばれています。
一般中国人の本音は、共産党中央に地方の不正・腐敗を厳しく取り締まってもらいたい、ということに尽きます」
10年前の北京在勤時代、筆者が共産党中堅幹部からよく聞かされた話だ。
真面目な中堅幹部たちは、
「地位が上がれば上がるほど、汚職調査も厳しくなるので、さすがに政治局常務委員会メンバーは腐敗していないはずだ」
と心底信じていたように思う。
着任当時の筆者はまだナイーブだったから、
「なるほど! そういうことで、この社会は成り立っているのか」
と素直にこの話を信じてしまった。
今から思い返せば、こうした政治局常務委員「清廉説」は中国共産党「正統性」の最後の砦だったのかもしれない。
その意味でも、今回の温家宝首相一族に関する報道はこうした「虚構のルール」を根本から崩してしまう破壊力を持っている。
もしNYT報道が間違いなら、中国側は堂々と具体的証拠を提示して反論すべきだろう。
なぜそれができないのだろうか。
■権力闘争の一環?
日本では今回の報道を党大会直前の党内権力闘争の一環と見る向きが少なくない。
報道直前、党内保守派グループは温首相の汚職を糾弾する怪文書を流布しており、NYT記事も薄熙来・前重慶市党書記に批判的だった温首相を狙い撃ちする効果があったというのだ。
確かにそうした側面があることは否定しない。
しかし、この問題を党内派閥抗争の反映などと簡単に片付けることは間違いだ。
なぜなら、この腐敗の問題は中国共産党の「統治の正統性」そのものを揺るがす大問題だからである。
そもそも、この程度のことは中国では日常茶飯事、程度の差はあれ、誰でもやっていること。
資産の多くは中国内政に必要不可欠の「政治資金」であって、個人的に悪用・流用したという意識・罪悪感は乏しいのかもしれない。
NYTによれば、温首相親族が巨万の富を得始めたのは、同氏が副首相に就任した1998年頃からだという。
されば、これは温家宝一族の金銭欲の問題を超え、彼の地位と権力を利用しようと群がった共産党内外の人々の並外れた強欲を反映しているのかもしれない。
今回の温家宝一族「隠し資産」報道は、こうした中国共産党の統治構造そのものが、底辺から頂点まで腐り始めていることを暗示している。
これまで中国共産党はこの種の問題を闇に葬り去ることで生き延びてきたが、
果たして共産党は次の10年を生き残れるだろうか。
』
その「宮崎正弘氏のコラム」を。
『
「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」 平成24(2012)年10月31日(水曜日)
通巻第3801号 <前日発行>
http://melma.com/backnumber_45206_5686334/
西側に「中国は民主化する」と主唱した「言うだけ番長」=温家宝首相
一族の海外資産が1200億円に達したとニューヨークタイムズに暴かれて
中国では偉い人の悪口はタブーである。
だからニューヨークタイムズが温家宝一族の凄まじいまでの蓄財の不適切さを暴いても、ネットからはすぐに削除され、多くの国民は知らない。
小紙は早くから温家宝首相一族の醜聞をつたえてきた。
夫人は「宝石ビジネスを牛耳り、息子はインサイダー取引の元締め」だと。
温家宝首相は国際会議へでると西側の民主主義と同様な価値観を希求しているなどと演説するものだから一時期、温家首相の国際的評価がたかく、国内で「言うだけ番長」といおう陰口はなかなか伝わらなかった。
温家宝の母親(91歳)名義のホールデング会社は1億2000万ドルの資産がある。
母親の名前だけを借りた企業というが、知らない筈はあるまい、とニューヨークタイムズが書いた。
温夫人である張培莉の個人資産は27億ドルともいわれ、04年には一時離婚説がまことしやかに語られた。
巨額な資産は1998年に温家宝が副首相になった以後に形成されたから疑問を持たれても当然だろう。
海外オフショア市場の利点を駆使し、兄弟と子供らは夫人の張培莉と共に、親戚名義や友人名義の幽霊会社、ペーパーカンパニを盛んに登記し、当初の資金は「チャイナ・モバイル」(中国最大通信企業)など国有企業が手当てし、銀行、宝石、旅行代理店、通信企業、リゾートホテル、建設土木企業など幅広く経営してきた。
夫人は「宝石女王」と異名をとるほどの財閥として中国のジュエリー業界に君臨し、デビアスが中国進出にあたっては彼女のもとへ挨拶に出向いた。
温一族の建設ゼネコン企業は北京五輪の鳥の巣スタジアム建設にも関与し、ほかに「平安保険」(中国第二位の生保)との癒着ぶりはつとに有名である。
平安保険は2004年に上場して18億ドルを掻き集めたが、上場が許可されるという事前のインサイダー情報を得た親戚友人等は、これで大儲けした。
じつに政策決定を事前に取得すれば錬金術の奥義を獲得できるからだ。
これってどことなくリクルート事件を連想する。
実弟の温家宏が経営する会社は汚水処理や、とくに03年SARS流の音おりには医療廃棄物処理を請け負い、政府との契約規模は3000万ドル、補助金などの情報を先に入手して大儲けをした。
なにしろ温家宝首相専管事項で諸政策を決定するわけだから、インサイダー取引にも結びつきやすい。この弟の資産は2億ドル。
▼火のないところに煙は立たない
息子の温雲松は香港財閥の李嘉誠と組んで資本金1000万ドルの技術会社を起ち上げることからビジネスをスタートさせ、「新地平線キャピタル」という私募債専門の持ち株会社を膨らませていく手法を用いた。
温雲松は温家宝・張培莉夫妻のひとり息子、米国ノースウエスタン大学ビジネススクールでMBA資格取得。
40歳。
「なにをしても悪く書かれるのでマスコミ取材には応じない」
とニューヨークタイムズの電話取材には夫人が答えた。
中国企業の株式上場の許・認可は首相の権限である。
国務院総理が企業上場判定をするのだ。
だから権力には甘い蜜を求める権力中枢の兄弟親戚が群がるのだ。
習近平一族が香港で不動産投資やら印刷会社を経営した規模を越える。
一族の反論を代弁し、中国メディアは一斉に
「ずっと以前からこつこつ貯めてきた資産」
「ニューヨークタイムズは言いがかりをつけて、中国の顔に泥を塗った」
と激しく抗議した。
しかし火のないところに煙は立たないって昔から言いませんか?
他方、在米華字紙の分析は
「これら温家宝一族の金銭スキャンダルは対立する保守派からニューヨークタイムズにリークされた」
と北京中枢の闇の権力闘争の側面を強調している。
かれらは西側メディアにつぎつぎと薄煕来、王立軍、周永康らの醜聞が漏れたのは、
団派から漏洩したと信じており、その報復だという。
』
【中国共産党第18回全国代表大会】
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