2012年10月18日木曜日

不幸な展開を迎えたBRICsの物語 

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JB Press 2012.10.10(水)  Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/36273

不幸な展開を迎えたBRICsの物語 

(2012年10月9日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 この3年間、一般的な概念は世界の主要経済国を2つの基本的なグループに大別していた。
 「BRICs」と「病人(sicks)」である。

 米国と欧州連合(EU)は病んでおり、高失業率と低成長、恐ろしいほどの債務に苦しんでいた。
 一方で、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国、そして一部の見方では南アフリカも加わる)は欧米よりはるかに活力に満ちていた。
 投資家や実業家、欧米の政治家は、未来をじっくり見つめるために定期的にBRICs諸国を巡礼した。

 ところが今、おかしなことが起きている。
 BRICsが苦境に陥っているのだ。

 個々の国の問題の性質は異なるが、BRICs諸国を結びつける大きな問題もいくつかある。
 まず、楽観的な「デカップリング」論が盛んに語られたにもかかわらず、BRICs諸国は皆、弱い欧米経済の影響を受けている。

 次に、5カ国すべてが今、蔓延する汚職が国の政治体制に対する信頼を損ない、経済に重い負担を課していることに気づきつつある。

■将来不安を覚える中国

 中国は今も新興大国の代表格だ。
 同国は世界第2位の経済大国であり、今も優にBRICsで一番の急成長国だ。
 それにもかかわらず、中国は長年なかったほど、自国の経済的、政治的な未来に対し強い不安を感じている。

 ある中国の友人が最近話してくれたように、
 「中国の経済は急減速しており、次の指導者は姿を消し、日本に向けて船を送り込んでいる」
のだ。

 習近平氏はその後、再び姿を現したが、最初に姿を消した時と同じくらい経緯は謎に包まれている。
 だが、薄熙来氏の裁判開始を間近に控え、極めて重要な共産党大会が迫り来る中で、政治的な緊張は高まったままだ。

 過去30年ほど、政治的な不確実性に対して中国が出す答えはいつも同じだった。
 急激な経済成長である。

 しかし、中国の成長率は2012年に、今世紀に入ってから初めて年間8%という象徴的な数字を下回る見込みだ。
 ある意味では、これは自然であり、望ましいことでさえある。
 成長減速は、中国の労働力がもはや以前ほど急増していないという事実を反映しているからだ。

 だが、鈍る経済成長は、欧州における需要の減退も反映している。
 中国の工場の賃金も急上昇している。
 これは労働者にとっては朗報だが、中国の競争力にとっては凶報だ。

■ブラジルやインドにも波及する中国の成長減速

 中国の減速は、その他のBRICs諸国に波及効果をもたらす。
 中国は今や、ブラジル、インド、南アにとって最大の貿易相手国になっているからだ。
 ブラジルの経済成長はとりわけ急激に落ち込んだ。
 リオデジャネイロが2016年夏季五輪の開催地に決まった翌年の2010年に、ブラジルの成長率は7.5%に達した。
 今年の成長率は恐らく2%に届かないだろう。

 インドはどうかと言えば、筆者が数週間前に訪れた時にあるベテラン実業家が話してくれたように、インド企業は「臨床的鬱病」に苦しんでいる。
 金融危機の前に9%を超えた経済成長は、今では5%を辛うじて上回る程度だ。
 インドは今夏、約6億人に影響が出た世界最大の停電によって自国の脆さを思い出させられた。

 政治体制は機能不全に陥った模様で、経済改革のプロセスは行き詰まった。
 最近のいくつかの発表は、改革が再開するという期待を抱かせたが、2~3年前のあふれんばかりの自信は概ね失われた。

 ロシアも苦境に陥っている。
 ウラジーミル・プーチン氏の大統領復帰はモスクワで大規模な抗議行動を引き起こした。
 そして米国のシェールガス革命は、ロシアに悲惨な結果をもたらす可能性がある。
 シェールガス革命のおかげで世界のガス価格が低下しているからだ。
 ロシアの中央銀行は、同国が2015年に経常赤字に陥ると予想している。

 プーチン体制を支える2本柱――従順な中流階級と石油・ガスから得られる大金――は、どちらもぐらついているように見える。

■BRICsの一角を成す南アフリカ

 BRICsという言葉を編み出したゴールドマン・サックスのエコノミスト、ジム・オニール氏はかねて、南ア経済は他のBRICs諸国と自然と肩を並べるほど規模が大きくないと主張してきた。
 それでも南アは直近2回のBRICs首脳会議に参加したし、次の首脳会議を主催する予定だ。
 これはBRICsが西側以外の大国グループに変貌を遂げている表れだ。

 いずれにせよ、BRICsの地位の新たな特徴が弱体化する経済と機能不全の政治だとすれば、南アはこのグループの一員となる資格がある。
 同国の鉱業は山猫ストに悩まされており、来年は何千人もの人員を削減する可能性が十分ある。

 経済成長は落ち込み、3%を下回る可能性が高い。
 そして、ジェイコブ・ズマ大統領の指導力(あるいは、その欠如)は深刻な不安を招いている。

 南アのプラチナ鉱山での騒動から中国の電子機器工場でのトラブル、さらにはインドでの停電からモスクワでの抗議活動、ブラジルでの汚職捜査までをすべて結ぶ直線は存在しない。
 だが、BRICs諸国の問題を結びつける大きなテーマはある。

■BRICsの問題を結びつけるテーマ

 まず、西側との「デカップリング」宣言は、早計だった。
 EUは今も世界最大の経済圏だ。
 欧州の景気後退と米国の低成長は、必然的にBRICsに影響を与える。

 次に、長年にわたる急成長はBRICs諸国に政治的な調和をもたらさなかった。
 民主主義国、独裁主義国を問わず、筆者がBRICs諸国を訪れて何度も出くわしてきたテーマは、汚職に対する国民の怒りが政治にとって極めて重要だということだ。
 そのため、政治家も投資家も潜在的な政情不安に神経質になる。

 では、これらのことはBRICsの物語がおとぎ話だったことを意味しているのか? 
 必ずしもそうではない。
 この物語の極端なバージョン――BRICs諸国を際限なきチャンスと楽観主義の国々として描くもの――が馬鹿げていたことは事実だ。
 だが、これだけ多くの問題を抱えていながら、BRICs諸国の大半は今後何年も病人より高い成長を続けるだろう。

 このことは、依然として、西側から新興国へと経済力、政治力がシフトする動きが我々の時代の大きな物語であることを意味している。

By Gideon Rachman
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